国境を越え評価を高める新世代のプロデューサー、Mars89が暗闇の中に描き出す光。
隣を歩いているひとに呆れられるくらいひたすらマーズくんのミックスを携帯で流して、鈴のビートを口ずさんだりしながら、まだやっている飲み屋を探して凍えるような真夜中のソーホーを歩く。新しい1年がまたやってくることが本当に毎回信じられないんだけど、世の中はまったく信じられないことばかりで溢れている。安倍が総理大臣やってるとか、ほんと信じられないっす。打のめされても、コービンは最高っす。人間よりも街を駆け抜ける汚ねえ鳩にフィールしてしまうこんな世界で、アタシたちは音楽の鳴るほうに吸い寄せられる新種の昆虫のように、スピーカーにふらふらと寄って行く。マーズくんが音楽を鳴らしている間、アタシは自分が昆虫だろうが鳩だろうがなんだろうが、そこにいることが許されているような気持ちになる。なぜならきっと、フロアにいる誰しもが、或いはこのミックスを聴いている誰しもが、とりこぼしなく傷つくことのない社会でいることをマーズくん自身が誰よりも祈っているからかもしれない。だからこそ、アタシたちオーディエンスは安心して自分の身体をまかせて踊ることができる。少なくともマーズくんが音楽が鳴り響かせている間は傷つかなくてすむ、と思えるからだ。それはまるでこの闇で覆われたミックスのアートワークが描いたような、暗闇のなかで音が光となって人間を形づけるような柔らかい瞬間とも言えるかもしれない。頭がぶっ壊れるほどの絶頂じゃなくて、最良の心地よさが永遠に続いてゆくタイプの快楽。生まれも状況も見た目もなにもかもが違う自分と他者が、ぴったりと同じところへ優しく溶けてゆく感覚。このサックスの音で始まる静かなる陶酔のミックスは、アタシたちをそんな場所へ連れて行ってくれる。 (UMMMI.)
PROFILE :
Mars89は現在東京を拠点に活動しているDJ/Composerである。2018年にBokeh Versionsからリリースされた12インチ ”End Of The Death” は、主要メディアで高く評価され、あらゆるラジオで繰り返しプレイされた。翌年にはUNDERCOVER 2019A/WのShowの音楽を手がけ、同年末その音源とThom YorkeらによるRemixをコンパイルし、UNDERCOVER RECORDSより12インチでリリース。田名網敬一のドキュメンタリーフィルム、Louis Vuitton 2019A/W Mensの広告映像の楽曲などを担当。 BristolのNoods Radioではレジデントをつとめている。
■ 2020年3月19日発売
販売価格 | 1,650円(税150円) |
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型番 | CD_MA358 |